このたび、京都・壬生寺に伝わる壬生狂言「羅城門」で使用される甲冑の修復を承りました。

今回の甲冑は、長年にわたり実際の舞台で使用されてきたもので、各所に傷みが生じ、損傷によって着用することができなくなっていました。

ご依頼いただいたのは、単に外観を整えるための修復ではありません。

壬生狂言の舞台で再び実際に着用し、使用できる状態へ戻すこと。

そのため、これまでの姿や風合いをできる限り尊重しながら、損傷した箇所を確認し、舞台上での動きにも耐えられるよう修復を進めていきます。

甲冑は、飾って鑑賞する場合と、実際に人が身につけて動く場合とでは、求められる強度や修復の考え方も異なります。

とりわけ、長い年月にわたって受け継がれ、舞台で使われ続けてきた甲冑には、重ねてきた時間そのものがあります。

新しく作り替えるのではなく、残すべき部分を見極めながら必要な箇所に手を入れ、再び本来の役目を果たせるようにする。

今回の修復では、そうしたことを大切にしながら作業を進めています。

これから、修復前の状態や実際の作業工程についてご紹介してまいります。

 

①兜部分の点検

眉庇(まびさし)を兜鉢に固定する鋲が脱落しています。

吹返(ふきかえし)部分や篠垂(しのだれ)もはずれかかっていて危険な状態ですね。

錣の小札を綴じ合わせている縅糸(平組紐)も状態が悪いので新調する必要があります。

錣(しころ)本体も大きく変形しているため演舞中に邪魔になりそうです。

兜鉢から錣を取り外しました。

慎重に浮張(うけばり)を剥離していきます。

着用したときに金属部分が直接頭に触れないようにさらに工夫がされていますね。

兜鉢の鉢巻部分にも一部損傷がみられます。錣取付の強度が落ちる可能性があります。

八幡座を鉢の裏で止めている部分が損傷しています。このため、篠垂れが外れたのだと思われます。

小札にも破損や変形があります。演舞の激しさを物語っているようです。

 

②兜部分の修復

まず、兜部分の修復からはじめていきます。

変形した箇所は適当な形状の金床にあてて、木槌や金鎚を使い分けて整形していきます。

うまく形状が整いました。

すべての小札を丁寧に修復していきます。

鉢巻の損傷部分は新たに鉄板で補強を行いました。

取り外した八幡座はしっかりと溶接しなおして強度を高めました。

これで外れていた前方の篠垂がしっかりと固定できるようになりました。

バラバラになった小札を綴じ合わせていきます。縅(おどし)と呼ばれる工程です。縅し糸はオリジナルに忠実に染色して制作しました。

風合いを合わせた止鋲を制作して兜部分を組立てました。

では、続いて鎧の胴体部分を見ていきます。

 

③胴部分の点検

つぎに胴部分を見ていきます。

前後の胴を引き合わせている蝶番が損傷しています。

背板の裏側は金具部分が露出していて危険ですね。

背板の表側にまわると、合当理(がったり)(胴の背に付けられた金具。指物(旗など)の受け筒を支える部位) が変形してしまっています。

肩上(わたがみ=綿噛)を取り付けている蝶番が破損しているため、肩上が脱落しています。

脱落した肩上は断裂しているため、鎧の着用ができなくなっています。

この部分は、修復を機に強度を高める必要がありそうです。

満智羅 (まんちら)にも傷みがみられますので補修が必要です。

 

④胴部分の修復

風合いをかえてしまわないよう気を配りながら、細部まで手直しをおこなっていきます。

手甲の破損部分は補強が必要です。

合当理(がったり)は現物を整形して再利用します。

肩上部は強度が必要と思われますので、厚みのある真鍮版を用いて新たに制作。銅製のフクリンを巻いています。

蝶番の芯部分も強度を持たせるため真鍮で新たに制作しました。

各部に下塗りの塗装を行いました。

肩上は本金箔で装飾を施します。

仕上がった肩上を満智羅に取り付けました。

胴部の引き合わせを補修しました。

水呑の緒、引付の緒は補修。その他、胴部分に使用する丸紐は破損が激しいので新調しました。

 

⑤補修完了

(※以下の画像はAIによる背景の修正を行っています。)


修復を終えて

修復を終えた甲冑は、その後、実際に壬生狂言「羅城門」の舞台でご使用いただきました。

しっかりと着用することができ、激しい演舞の中でも問題なくその役目を果たしていたとのことで、私たちも一安心いたしました。

甲冑は、本来、人が身に着け、動くことを前提として作られたものです。とりわけ今回のように、長年にわたり舞台で使い継がれてきた甲冑の修復では、見た目を整えるだけではなく、実際の動きに耐えうる強度を取り戻すことが何より重要になります。

修復した甲冑が再び演者の身に着けられ、舞台の上で力強く動く姿を見ることができたことは、作り手として大変うれしいことでした。

長い年月を経て受け継がれてきた品に手を入れ、再び本来の役目を果たせるようにする。

新しいものを生み出す仕事とはまた異なりますが、これもまた、甲冑制作の技術を次の時代へつないでいくための大切な仕事のひとつだと感じています。

壬生狂言という長い歴史を持つ舞台の中で、この甲冑がこれからも使い継がれていくことを願っています。

 

一水工房



 

2026年 10月10日