胴丸鎧の制作工程
「胴丸鎧」は愛媛県大山祇神社が所蔵する国宝鎧です。
今回はこの国宝鎧の模写制作について。
大鎧と胴丸の特色を兼備した特殊の形状の鎧であり平安末期に制作された大変優れた逸品です。源義経が源平合戦に大勝を収めた後、武将佐藤忠信に代参奉納せしめた「八艘飛びの鎧」と呼ばれています。この形状の鎧は現存では唯一のものでありとても貴重な遺物といえます。
さっそく制作に取りかかります。
【下準備】まず、さまざまな資料を参考にして基本データを作成します。 この鎧は以前から何度も実物を見ているので、その時の情報も参考になります。
【寸法の割り出し】
調査内容にもとづいて各部の寸法を割り出し、厚紙でおおまかな形状をつくります。
【仮組】割り出した寸法に基づいて正確に鎧生地を制作して仮組をします。全体のバランスを調整してから加工をはじめます。
【漆塗り】
黒漆塗り。 何度も塗り重ねることによって深みのある艶をもつ仕上がりになります。
各々部材を絹の組紐で綴じていきます。
【縅(おどし)】
縅(おどし)とは緒通し(おどおし)から変化した言葉と言われています。小札(こざね)に紐を通して綴じ合わせていく工程です。
本歌は赤絲縅の鎧ですが経年変化で縅糸が変色しています。
今回は元の色である赤い絹糸で綴じています。
大袖(肩を保護する装備)と草摺(太ももを保護する装備)。
【革所(かわどころ)】
革所の寸法を決定します。 調査資料に基づいて原型を作成。 まず、鉄板で仮制作して調整します。
試作に基づいて作った型紙から革所の生地を作ります。 今回は厚さ1mmの真鍮板を使用しました。 それぞれのパーツを糸鋸で切り出します。 真鍮版には作業中の傷を防ぐためのフィルムが貼り付けられています。
【覆輪(ふくりん)】
革どころのヘリに取り付けるフクリン。 装飾と補強の役割をします。 この後、研磨していぶし銀色にメッキ加工します。
【錺金具(かざりかなぐ)】
この鎧の大きな特徴のひとつで開扇紋の形状をしています。 調査資料に基づき制作。 一つずつ銅板を手彫りして制作します。 繊細なラインがとても美しく表現されています。同じく研磨してイブシ銀メッキを施します。
【組立】
すべての部材が揃ったらいよいよ組み立てていきます。
胸部の栴檀の板、鳩尾の板は大鎧の特徴です。
大袖の冠板には開扇紋の錺金具を取り付けます。
各方向からの画像。いったんこれで完成です。この鎧には兜部分がありません。 最初から存在しなかったのか、それとも失われてしまったのか… いずれにせよ、世界にひとつしかない非常に貴重な鎧です。
最後に兜部分を制作してみました。 実物には付属していないのでしっかりと時代考証をして制作しました。